2009年8月25日火曜日

Fw:[JMM546Ex2] K.I.T.虎ノ門大学院シンポジウム2009『第三の開国』後編

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From: JMM(Japan Mail Med(Japania) <jmm@jmm.co.jp>
Date: Tue, 25 Aug 2009 13:05:43 +0900
To: <mnbmatsumoto@gmail.com>
Subject: [JMM546Ex2] K.I.T.虎ノ門大学院シンポジウム2009『第三の開国』後編

                              2009年8月25日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.546 Extra-Edition2
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 ■ 2009年1月23日 K.I.T.虎ノ門大学院シンポジウム『第三の開国』
   第一部基調講演(後編)


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■情報への"飢え"

三谷:『飢え』という強い言葉が出てきました。

村上:人間はすぐ飢えます。1日食べなかったら、もう結構飢えますからね。飢えと
   いうのが発生すると、ネガティブな意味でもポジティブな意味でも強いんです
   よ。僕も、さすがに食いものには飢えませんけど、情報には飢えます。

   小説を書く時は、具体的にこの情報が欲しいというものが出てきます。例えば
   最近の長編だと、『半島を出よ』という作品を書いたのですが、その時は、北
   朝鮮のコマンドを語り手にしようという、あまりにも無謀な試みをやりまし
   た。

   そういう時は、どうやって書いていこうかなと思って、いろいろな本を読むん
   です。北朝鮮のコマンドが日本に侵略してくる、ゲリラ活動をするという本は
   かなりあるんです。けれども彼らはあくまで、異物として書かれているんで
   す。異物として書くのは当たり前なんですよ、解るわけがないから。ところ
   が、北朝鮮のコマンドを語り手にするという方法が必要なんじゃないかなと、
   ふと思っちゃったりするんですね。「いや、そんな事を考えちゃイカンイカ
   ン、とんでもない最後になるから、冗談だ冗談」などと思って、また別のこと
   を考えようとする。

   でもそういう時というのは、一番困難なやり方というのが大体正解なんです。
   別に小説家が小説を書く時の方法論というだけではなくて、きっと皆さんが仕
   事、ビジネスをやられる時でも、だいたい一番難しくて困難な方法が正解なん
   だと思います。見ないように見ないようにしたいのですが、それが正解だか
   ら、「まあ、できたらやってみようかな」という感じで、だましだましやって
   いくわけです。

   ただ、どうしてもそうなると、北朝鮮の人に会わないと、書けないんですよ。
   で、中国の朝鮮族が住んでるところに行こうかなと思ったら、ちょうどSAR
   Sが蔓延していて、行ったらダメだと言われた。それで、在日の友達の何人か
   に聞いたら、ソウルに脱北者のコミュニティがあるというので、ソウルでのべ
   20人ぐらいの脱北者に会ったんです。

   すごく疲れましたよ。脱北者も、日本人の作家が来たというから、きっと非常
   に劇的なことを聞くんだろうと思って来るわけです。でも僕は、「どこに住ん
   でいましたか」とか、「ちょっとお家の見取り図を書いて下さい」とか、「ど
   んな先生で、どんな授業があって、好きな子とかいましたか」とか、「何を食
   べていましたか」とか聞くから、「こいつスパイじゃないか」と思われたりし
   て(笑)。「もう話しません」とか言われたりしてとにかく大変だったんで
   す。

   ものすごく大変でしたけど、そうやってある情報に自分がすごく飢えていると
   いうのが解る状態というのは、悪くないんですよね。価値のある仕事やプロジ
   ェクトをやっていたら、絶対情報に飢えるんです。そしてその情報をひとつず
   つ手に入れていく。情報への飢えある状態というのは、人間の精神にとっては
   すごくいい状態だと思います。

三谷:作家としてのキャリアを積んでこられて、こういうことが書きたいという時
   に、どういうふうに情報を集めればいいかとか、どうアプローチすればいいか
   ということが、見えているという感じはあるのでしょうか。こういうことがし
   たいとか、もしくはこういう事を知りたいって思っても、どうすればいいんだ
   ろうで止まってしまい、悶々として3年が過ぎてしまいましたというようなこ
   とも多いと思うのですが。

村上:それは多分、情報に飢えてなかったんです。情報に飢えてれば、絶対辿り着く
   んですよ。インターネットでもう6割から7割の情報は手に入りますし。た
   だ、その情報に自分は飢えている、その状態の自分にするというのは、簡単で
   はないと思いますね。

   そういう自分がありさえすれば、どんな情報が足らないかとか、その情報をど
   うやってインプットすればいいかというのは、すごく簡単です。カルロス・ゴ
   ーンが、会社の経営でも、どこにボトルネックがあるのかがわかれば8割は解
   決すると言っていました。それと似てると思うのですが、自分に今どんな情報
   が必要かがわかれば、それを入手するのはすごく簡単です。


■30代、40代の戦略

三谷:龍さんは小さい時に、いろいろな大人を見て育ったのでしょうか。私は田舎で
   育ったので…

村上:僕も田舎ですよ。

三谷:あまり大人にバラエティが無かったんですね(笑)。職業にしてもそうです
   し、小さい学校なのでひとクラス20人みたいな感じで。

村上:僕は1952年の生まれで、ちょうど僕が生まれた頃に高度成長が少しずつ始
   まった。非常に貧しくて不潔だったですよ。だから昔がいいとは絶対言いたく
   ないんです。今の方が遥かにいい社会です。ただ、昔が唯一良かったのは、絶
   対に1年後、5年後、10年後、自分も周りの人も日本社会そのものも、もっ
   と豊かになっていると思えたことです。

   今は昔よりもはるかに清潔で、健康的で、インフラも整っていて快適なんです
   よ。昔、家の中の花瓶が凍っていましたから、九州でも。恐ろしい話ですよ
   (笑)。サッシや網戸が無い時代は、蚊帳で寝てたんです。蚊帳というのは江
   戸時代からあったらしいんですよ。だから高度成長の頃というのは江戸時代と
   変わらない暮らしだったんです。だから夏休みが終わって学校へ行くと、2人
   ぐらい、日本脳炎で死んでいたりした。酷い時代だったんです。昔はいいと言
   う大人は大嘘つきだと思います。

   ただ、大事なのは、高度成長の頃は、『三丁目の夕日』みたいな世界ですが、
   家に電気洗濯機がきてお母さんが喜んでるとか、テレビがきてみんながプロレ
   スを観にきてるとか、大人達が子供に勉強しなさいと言ったり、本を与えると
   いうことではなく、大人が楽しそうだったんですよ。今の調子だったら5年後
   には軽自動車が買えると思いながら働いているわけだから。

   僕は佐世保というところに住んでいて、そこに造船所があったんです。造船所
   の例えば溶接工のようなブルーカラーの人達も、どんどん給料は上がっていく
   わけだから、あと3年頑張れば軽自動車が買える、あと5年頑張れば普通車が
   買える、あと10年頑張れば多分小さな家が買えると思っている。そういうモ
   チベーションで働いている大人というのは、自信に満ちているんですよね。一
   方には酷い家庭内暴力があったり、昼間から酒を飲んでるような奴がいたりと
   いうこともあるんですよ。

   でも今、5年後に自分の人生は絶対よくなってるって思って生きている大人は
   すごく少ないと思うんですよ。そういう中で育つ子供はすごい閉塞感があると
   思う。だから世知辛い話ですが、個人的に、どうすれば2年後、5年後、10
   年後に自分の人生は良くなるかという事を、ある程度自分で戦略的に考える必
   要がある。特に今年は経済的には最悪になりそうですから。

三谷:そういう意味で30代の役割とか40代の役割をどう考えたらいいでしょう。
   まあ世代ごとにどれぐらい違うのかわかりませんが。

村上:20代の後半には大体この方法、仕事で生活していくというものと出会って、
   35までにキャリアを積む。それは普遍的なことじゃないかと思うんです。

三谷:そう言われて、この会場で『そうだよね』と言える方がまたどれぐらいいらっ
   しゃるか。多分、悩みのある30代、40代の方も集まってこられていると思
   うので…。

村上:わかんないですよ。

三谷:そうですか。

村上:ええ、もう自信満々かもしれないですよ(笑)。こういうとこにいらっしゃる
   人は大体大丈夫なんですよ。

三谷:そうですね。それは同意します。

村上:援助交際について話してくれと頼まれて(笑)、東北地方の産婦人科学会に呼
   ばれたことがあるんですよ。ちょうどそういう小説を書いていたので、援助交
   際がいかに危険なことかを高校生に話してくれと言われて。でもそういうとこ
   ろに来る高校生は、絶対に援助交際はしないんです。だからそういうところで
   援助交際の危険性を話しても…と思いながら、しょうがないから話しました。
   こういう場所にいらっしゃる人達は、ベースの部分で大丈夫なんですよ。

三谷:ではベースのところで大丈夫だからこそ、もっとこうすればどうかとか、頑張
   れというような言葉がありましたら…

村上:大丈夫な人は放っておくのが一番ですよ。

三谷:そうしましょう。

村上:大丈夫な人を放っておくと、自分自身で考えるんです。この人はどう見ても自
   分自身では考えられないなという人には…言ってもしょうがないんですけど
   ね。


■教育の役割とは

三谷:教育機関にはそれぞれの役割があると思います。学校、企業教育、幼児教育、
   それに我々みたいな社会人大学院みたいなのもあるのですが、もうちょっとこ
   ういうふうになったらな、というようなことはありますか?

村上:最初に言ったように、社会人になって学びたいという人が今、増えているのは
   間違いないと思うんです。そういう時に社会人大学院みたいなものがあるとい
   うのは、すごくいいことだと思いますよ。今までは無かったですから。

三谷:そうですね。

村上:これからは1回社会に出てまた大学に戻ったり、大学を卒業してもう1回編入
   するというようなことが当たり前になってくると思います。身も蓋もないので
   すが、その人にどれだけの知識や技術やスキルやネットワークがあるかという
   ことだけが問われる時代になってきましたから。いくらいい人でも、なかなか
   生き辛い。僕は今、若者じゃなくてよかったなと思います。今の若者は大変で
   すよ。

三谷:そうですね。そのことを本当の意味でわかってない上の人が多いのが、一番若
   者にとっては、苦しいところかもしれません。

村上:大人はいつもわかってないんですよ。ただ、大人がわかる必要は無くて、こう
   いう社会人大学院であるとか、あるいは社会人になってからもう1回学べるよ
   うな一種の奨学金であるとか、そういったことを行政がきちっとやるだけでい
   いと思うんです。かけ声ではなくて、準備してあげるだけでいいと思うんで
   す。

   逆にそのほうが、子供も若い人も、大人がどのくらい本気で自分達のことを考
   えてくれているかがわかりますから。ある程度お金も必要だと思いますが、そ
   ういう準備をしてあげるだけで僕はいいと思います。ただそれが一番難しいの
   かもしれないですが。

三谷:子供の教育については何かありますか。

村上:子供の教育環境とか、子供の育つ家庭の経済力によって格差が出てきているの
   で、子供の教育というような広い一元的な考え方をしてうまくいくのかという
   疑問はあります。

三谷:秋田、福井のように、田舎であまり格差がないようなところが、実は一番にな
   っていたりするということもあります。

村上:ノーベル賞を取るようなすごく優秀な子供の割合を2%から3%にするのか、
   それとも底辺の20%の子供達を引き上げるのか。

   僕が小さい頃は公立小学校しか無くて、九州ですから炭住とかもあって、本当
   に貧しいんです。でもそこから東大に行く子とかも出てくるんです。非常に貧
   しかったり、家庭環境が悪かったり、母子家庭だったりする子供達の中にもす
   ばらしい子はいっぱいいるので、そういう子に最初から可能性が無いという社
   会は、絶対没落するんです。

   とはいえすべての教育を20%のボトムに合わせることもできないから、彼ら
   を何とかする努力と、2%のエリートを5%にする努力と、あるいは中間層を
   どうするかというように、僕は本当は微妙にバラエティがあってもいいんじゃ
   ないかなと思いますが、なかなかそういったことは、均一社会、均一的な価値
   観が好きな国では、話し辛いところがありますね。


(了)

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JMM [Japan Mail Media]                 No.546 Extra-Edition2
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